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『告発のとき』(2007年・監督:
ポール・ハギス)
『クラッシュ』(2005年)で見事な群像劇を描いてみせたポール・ハギス監督が、真っ正面から
イラク戦争の問題に取り組んだ作品。
“真っ正面”といっても、
『プライベート・ライアン』(スティーヴン・スピルバーク監督・1998年)の冒頭のような凄まじい戦闘シーンが飛び出すわけでもなく、
『プラトーン』(オリバー・ストーン監督・1986年)のようなヒリヒリする攻防や泥沼化した戦場が描かれるわけでもない。
強いていえば、ジョン・ボイトが負傷したベトナム帰還兵を演じた
『帰郷』(ハル・アシュビー監督・1978年)がそのテイストに近いが、本作では描かれるのは戦争によって奪われた「身体」ではなく、「心」だ。
軍隊(警察)を退役し、妻と二人で暮らすハンク(
トミー・リー・ジョーンズ)の元に、イラクから帰還した息子が行方不明になったという連絡が入る。やがて息子は焼死体となって発見されるが、軍も警察もおざなりの捜査しかしない。
事件の真相を知るために、女性刑事エミリー(
シャーリーズ・セロン)の協力を得て、ハンクは独自に調査を始めるのだが…。
物語は、薄皮が剥がれるように、次第に「真相」に近づいていくのだが、ここではハリウッド的な軍や政府による陰謀や隠蔽といったどんでん返しもなく、淡々とイラク戦争の真実とそれを体験した兵士たちの“狂気”があぶり出されていく。
アメリカを、軍隊を信じて、息子をイラクへ送りだしたことが、こんな仇となって却ってきたことを彼自身が受けとめきれない。息子にとりついたその“狂気”を信じたくない父親ハンクの姿が、痛ましい…。
そのハンクの複雑な心理をハギス監督はゆっくりと描き、ジョーンズも抑えた演技で、それに応えていく。それがまた、兵士たちの“壊れてしまった感情”を不気味に写し出し、息子とハギスの苦悩が次元を超えてシンクロする…。
セリフを極端に廃したその演出は、
ジム・ジャームッシュ作品を観ているかのようでもあり、まるで
小津映画のようでもある。地を這うかのようにゆっくりと進む物語に、小津監督が戦争告発映画が撮ったかのような錯覚すら覚えてしまう。
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