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【演劇】維新派『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』
2010-12-03


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維新派による舞台『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』のさいたま公演を観に行く(12月2日・さいたま芸術劇場)。

本作は、南米篇、東欧篇に続く「〈彼〉と旅をする20世紀三部作」の完結篇として、今夏、岡山県・犬島の精錬所跡地での公演が大きな話題を呼んでいたもの。この野外を会場としたスケールな大きなスペクタクル劇が、屋内劇としてどう再構築されるのか、注目を集めていた。

ワタシが維新派の舞台を観るのは、「青空」(94年)以来だが、朝日舞台芸術賞受賞を受賞した「カンカラ」(02年)の犬島公演はたしかTV放映で目にしていたかと思う。
いずれにせよ久しぶりに体験する維新派ワールドだ。

会場に入ってまず目に飛び込むのは、これこそ維新派の真骨頂と言っていい木材が組み合わされた巨大な舞台。本作のテーマは「アジア」ということで、それをイメージさせるゴツゴツとした船着場のような風景が拡がる。

舞台はいきなり維新派独特の「ヂャンヂャン☆オペラ」のスタイルで幕が明ける。登場した数十人の男女が、独特な変拍子のリズム(音楽・内橋和久)で身体を動かし、ケチャのような発語が、それと絡み合う。
その繰り返しの多いミニマムな動きは、まるでチャプリンの『モダンタイムス』を思わせるが、そのアジアン・テイストな衣装と相まって、“舞踏”にも似たパフォーマンスが繰り広げられる。

やがて、舞台ではさまざまな〈彼〉らが登場し、アジアと日本の“物語”が語られ始める。維新派がこんなにセリフの多い劇だったのかと思われるほど、アジアを“旅する”日本人と、アジア人の人びとが次々と現れては、自身とその時代、そしてその置かれた状況を独白していく。

タイ、フィリピン、インドネシア、台湾、サイパン…その舞台はまさしくアジア中に拡がっていくのだが、この“物語”のキモは、その光を20世紀初頭からに当てていることだ。
つまり、あの忌まわしい戦争へと突入していく以前に、どれほど多くの日本人がアジアを行き来し、かの地の人びとと関わりを持ったのか、その交流はどれだけの拡がりがあったのか。
それらをダイナミックな舞台を通じて詳らかにしていく試み。まさに歴史に封印されてきた市井の人びとに新しい汎アジア歴史地図の提示、それが本作の狙いなのだろう…とワタシは勝手に解釈した。

舞台は、中盤のフィリピンのダバオでの工事シーン、終盤の躍動感あふれる群舞など、いくつかのハイライトを配して、維新派のあのスペクタクル世界をワタシたちに魅せてくれる。終幕の、夜空に吸い込まれるかのような美しいシーンも見事に余韻を残す。

しかしながら、久しぶりに接する舞台に期待が大きかっただけに、ワタシには少々カタルシスが足りなかった。正直、途中やや退屈な場面も散見した。
その原因は、もちろん「ヂャンヂャン☆オペラ」を既に体験しているせいもあるのだろうが、あの“手法”に、もはや新鮮味を感じなくなっているワタシがいる…。二度にわたって登場した“巨人”(あれが〈彼〉なのか?)も、ワタシには「ジャンボマックス」に見えてしまい、そう驚きがない。


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[演劇・ダンス]

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