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『海外特派員』(1940年・監督:
アルフレッド・ヒッチコック)
ヒッチコックは1925年の
『快楽の園』から遺作となる76年の
『ファミリー・プロット』まで、57本の作品を撮っているが、ワタシが観ているのは主に50〜60年代にかけての名作群で、ほかの時期の作品の多くを見逃している。
本作は、イギリスで活躍したヒッチコックがアメリカに渡って、いきなりオスカーに輝いた
『レベッカ』(1940年)に続いて制作された作品で、どうやら彼の諸作の中ではB級というレッテルが貼られていたようだ。
それは主役の二人が、他のヒッチコック作品を彩った名優カップルではないことも要因にあるようだが、ところがどうして、ワタシの眼には本作もまたヒッチコック印がきっちりと刻まれた逸品に映る。
物語は、戦争勃発の危機が迫るヨーロッパへ特派員として派遣された新聞記者(
ジョエル・マクリー)が、戦争回避のカギを握る老政治家の“暗殺”現場に立ち会い、その陰謀に巻き込まれていくというもの。
冒頭の、摩天楼の俯瞰ショットからビルの窓へとカメラが侵入し、新聞社内を照らし出すという、後の
『ウエストサイド・ストーリー』を思わせる洒落た導入からして、まずニヤリとさせされる。
ついで、“特派員”を探す社長が、うってつけの人材を見つけてほくそ笑むシーンなど、もう掴みはOKという感じで、一気に物語に引き込まれる。
平和運動のリーダーの娘(
ラレイン・デイ)と恋仲になり、“暗殺”の真相を追ってのカーチェス、風車小屋での息をもつかせぬサスペンス・シーンなど、映画の面白さをすべて詰め込んだ教科書のような展開。
クライマックスは、ドイツ軍の攻撃を受けた旅客機が海に突っ込むシーンだが、機内のパニックから海水が流れ込むまでを、なんとヒッチコックはワンショットで撮り切るというマジックを魅せる。
このシーンをどうやって撮ったのかは、じつは
トリュフォーとの
『映画術』禺画像] の中で詳しく語っているので、興味ある方はぜひ参照されたい。
ほかにもミステリアスな風車のアイデアや、雨傘の中を犯人が駆け抜けていくシーンなど見どころ満載だが、いずれしても幕の内弁当のよう過不足のない仕上がり。
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