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【映画】シリアの花嫁
2011-01-13


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『シリアの花嫁』(2004年・監督:エラン・リクリス)
2004年モントリオール世界映画祭のグランプリ作品ということだが、これが存外面白かった。

製作がイスラエル・フランス・ドイツで、アラビア語・ヘブライ語・英語・ロシア語・フランス語が飛び交うというまさにグローバルな映画。
監督はワタシも知らない人だが、深刻になテーマをブラックなユーモアをうまくまぶして、じつにエンターテイメントな作品に仕立てている。

イスラエルの占領下中東・ゴラン高原のとある村。その複雑な国際情勢によって“無国籍者”になっている花嫁モナ(クララ・フーリ)が嫁ぐ日だというのに、花嫁も姉(ヒアム・アッバス)もなぜか悲しげな表情をしている。その理由は、祖国のシリア側への“境界線”を越えたら、二度と家族のもとへは帰れないからだ。
そこへ信仰に背いてロシア人と結婚した長男家族や、“境界線”で手続きを担当する女性スタッフの元恋人だったいうプレイボーイの次男もやって来るのだが、トラブル続きで花嫁は“境界線”をなかなか越えられない…。

この複雑な政治・国際情勢に翻弄されるながら、さらに親兄弟・親族との確執など揺れる家族の姿が描かれるのだが、ここでうまく配されたのが、花嫁を撮影するカメラマンの存在だ。
このカメラマンによる“外からの視点”が入ることによって、この愚かしくも複雑な物語がユーモアをもって解説される。それまでまったく笑顔を魅せなかった花嫁が、この道化的な役割を担ったカメラマンとの短い会話で、初めて笑い顔をみせるのだ。

さらに、長男のロシア人妻とその息子も然り。“部外者”として的確な役割を得て、二人の存在もまたこの物語にふくらみを与えている。

そして、二進も三進もいかなくなったこの悲喜劇に幕をひいたのは、誰あろう花嫁の敢然たる行動によってだった。そのキリリとした花嫁の表情以上に、それを見送る姉の、悲痛な思いに打ちひしがれながも妹を祝福することを決意した表情が、じつに素晴らしい。
その眼差しは喜びに満ちたものではなく、苦難なる未来をしっかりと見すえている。

『扉をたたく人』でも圧倒的な存在感を示していた彼女が、ここでもまるで彼女の映画であるかのようなじつに印象深い演技を魅せて、この秀作は晴れやかに終わる。

『シリアの花嫁』の参考レビュー一覧(*タイトル文責は森口)
「政治的な要素と共に、家族の普遍的な愛を描く物語」[LINK]--映画通信シネマッシモ
「実情を踏まえて、民族と国家のあり方を問う」[LINK]--映画ジャッジ!(福本次郎氏)
「愛、団結、勇気に彩られたドラマ」[LINK]--映画ジャッジ!(佐々木貴之氏)
「『シリアの花嫁』の見方」[LINK]--パレスチナ情報センター(早尾貴紀氏)
「〈観ること〉が、今、〈映画〉によって問われている」[LINK]--図書新聞(小野沢稔彦氏)

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