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六本木ヒルズは物見遊山で訪れたことはあるものの、じつは今まで
森美術館に足を踏み入れたことがなく、機会があれば覗いてみたいと思っていた。
この度、
「幽体の知覚」と題された現代美術家・
小谷元彦氏の個展でそれが実現した(1月24日・森美術館)。
1972年生まれ、東京芸術大彫刻科出身で、ヴェネツィア・ビエンナーレをはじめ多くの国際展で活躍していたというこの若い作家については寡聞にして知らなかったが、そのダイナミズムに溢れた作風と、まさに世界を掴まんばかりの才能に圧倒された…。
展示は、
レベッカ・ホルンを彷彿させるかのような、身体の“痛み”を感じさせる作品群から始まる。
“天使”のような少女の掌がザクロのように裂けて、血肉がにじむ
「ファントム・リム」、
“大リーグ養成ギプス”を思わせるような「フィンガーシュバンナー」、そしてオオカミの毛皮と頭部をまとい剥製人間と化した「ヒューマン・レッスン」は観る角度によって、怒りや哀しみといった多面な感情が表出される…。
最初の“圧巻”は、
巨大なしゃれこうべがくし刺しにされたままグルグルと回転し続ける作品。ワタシたちの、表裏し連続する生と死を暗示させるかのようで、これも相当“痛い”といえる。
池田学氏の緻密画のような、溶解し骨化する生命体が垂れ下がるような作品もあれば、海を漂流するための
巨大な木製スカートといった、やはり身体に帰着するユニークな作品が続くのだが、この個展が後世の“語り種”になるとすれば、それは体感する巨大アート
「インフェルノ」の豪気と斬新性に他ならない。
滝の映像が流れ続ける、直径6メートルの8角柱の小部屋に入ると、そこは凄まじい映像と轟音の洪水にさらされる。天上と床は鏡ばりで、天空から降り注ぐ滝が足元の奈落の底へ吸い込まれる。その場に立つ自分が、滝とともに下降していくのか上昇しているか、無限空間に放り出されたかのような不安と解放感…。
まさに体感するアート。この特異な浮遊感を体験するだけでも、この個展に足を運ぶ価値がある。
朝日新聞編集委員の大西若人氏は
「今どきの3D映画なんて、目じゃない」と評していたが、たしかに
国立科学博物館の360度シアターをも凌駕する体感だった。
その後に続く、地獄から甦ったように皮をはがされ、ミイラのようになって武者と馬が疾走する作品などに気押されたまま、
「ホロウ」と題された作品群が置かれた一室に足を踏み入れると、そこは個展のテーマたる巨大な「幽体」たちがたむろしていた…。
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