1993年に公開されたジェームズ・アイヴォリー監督による
『日の名残り』は、第二次世界大戦とイギリス貴族の没落を背景に、アンソニー・ホプキンス演じる執事と、女中頭エマ・トンプソンの秘めたる恋を綴った名作だが、この二人の名優による名演はもとより、そこに描かれたイギリス貴族社会の緻密な描写に唸らされたものだった。
そして、さらにワタシを驚かせたのが、その原作が日本生れの「日系人」の手によるものだったことだ。そしてその作家、
カズオ・イシグロ(石黒一雄)氏は、世界的な名声を得たこの『日の名残り』による英ブッカー賞受賞以降も、勢力的に作家活動を行っている。
しかしながら、ワタシはそのイシグロ氏の作品に今まで接することなく、本作によって初めてその
作品世界を知った。
「介護人」キャシーの回想によって物語は始まる。キャシーが育ったヘールシャルムという施設を舞台に、そこで暮らす子どもたちの日々が描かれるのだが…そこは外界から閉鎖された宿舎で、保護官による教育が粛々と行われている。
この謎めいたヘールシャルムという施設からまずワタシが想起したのは、先頃の
“タイガーマスク運動”でクローズアップされた
児童養護施設で、おそらく何らかの事情で親のない子たちが集められたイギリスならではの施設なのだろうと、当初はそう思いながら読み進めていった…。
それくらい、このヘールシャルムでの描写はどこか牧歌的で、ワタシなどは子どもの頃に読んだイギリスの寄宿舎を舞台にした小説をシアワセな気分で思い返していたのだ。
ところがこの物語は、100ページに迫ったあたりでその様相を一変し、読者を
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